2025-12-12

マイクロソフト、バウンティプログラムの有無にかかわらずバグ報酬を約束

マイクロソフトは、バグバウンティプログラムを見直し、全ての製品やサービスにおいて脆弱性を発見した研究者に報酬を支払う方針を発表しました。新たな「デフォルトで範囲内」アプローチにより、第三者のコードやオープンソースの脆弱性も対象となります。この変更は、特にクラウドやAIの分野における脅威に対抗するためのセキュリティ強化を目的としています。昨年、マイクロソフトは1700万ドル以上を研究者に支払っており、今後も支出を増加させる見込みです。

メトリクス

このニュースのスケール度合い

7.0 /10

インパクト

6.5 /10

予想外またはユニーク度

7.0 /10

脅威に備える準備が必要な期間が時間的にどれだけ近いか

7.5 /10

このニュースで行動が起きる/起こすべき度合い

7.5 /10

主なポイント

  • マイクロソフトは、全ての製品やサービスにおいて脆弱性を発見した研究者に報酬を支払う新しい方針を導入します。
  • 新しいアプローチでは、第三者のコードやオープンソースの脆弱性も対象となり、報酬が支払われることになります。

社会的影響

  • ! この新しい方針により、セキュリティ研究者がより多くの脆弱性を発見し、報告することが期待されます。
  • ! 結果として、マイクロソフトの製品やサービスのセキュリティが向上し、ユーザーの安全が確保される可能性があります。

編集長の意見

マイクロソフトの新しいバグバウンティプログラムの見直しは、セキュリティ業界において重要な一歩です。特に、脆弱性の発見を促進するための「デフォルトで範囲内」アプローチは、研究者にとって大きなインセンティブとなります。これにより、従来のプログラムでは対象外だった第三者のコードやオープンソースの脆弱性も報告される可能性が高まります。セキュリティの脅威が進化する中で、マイクロソフトがこのような柔軟なアプローチを採用することは、企業のセキュリティポスチャーを強化するために不可欠です。さらに、昨年の1700万ドル以上の支出は、研究者の貢献を評価する姿勢を示しており、今後の支出増加が期待されることから、セキュリティ研究者との関係がより強化されるでしょう。今後の課題としては、報告された脆弱性に対する迅速な対応が求められます。研究者からのフィードバックを受け入れ、改善を図ることで、より良いプログラムへと進化させることが重要です。また、研究者が報告した脆弱性の評価プロセスを透明にし、信頼を築くことも必要です。これにより、セキュリティコミュニティ全体が協力し、より安全なデジタル環境を実現することができるでしょう。

解説

Microsoftがバグ報奨を「原則対象」へ—第三者コードとOSSまで包含する方針転換の意味

今日の深掘りポイント

  • 従来の「対象プログラムごとに範囲明示」から「デフォルトで範囲内」への転換は、クラウドとAIを含む広範な攻撃面の発見を加速させる可能性が高いです。
  • 第三者コードやオープンソースの欠陥まで報奨対象化する方針は、サプライチェーンの脆弱性露呈を前提に運用を組み替える合図です。OSSメンテナとの調整、重複報告、脆弱性の共有責任モデルが実務課題になります。
  • 報奨総額の増額は研究者の経済的誘因を高めますが、同時にMSRCのトリアージ負荷と修正SLA、公開タイムラインの統制が品質の勝負どころになります。
  • 各種スコアからは即時性・実行可能性が高いテーマである一方、現場では法的セーフハーバー、マルチベンダー調整、AI特有の脆弱性評価の標準化がボトルネックになりがちです。SOC/CSIRTは運用の目詰まりを起こさないための前処理(VDP・SLA・連絡線)を先に整えるべきです。

はじめに

Microsoftが、個別のバグバウンティプログラムの有無にかかわらず、同社の全製品・サービスで発見された脆弱性に報酬を支払う「デフォルトで範囲内」アプローチへと移行したと報じられました。第三者コードやオープンソース由来の欠陥でも、Microsoftのプロダクト/クラウド/AIサービスに影響するなら報奨の対象に含めるというのが骨子です。報道では同社が昨年、研究者へ1,700万ドル超を支払っており、今後支出を増やす見込みであるとされています。詳細はThe Registerが伝えています(一次発表や詳細条件はMSRCの公式文書の確認が必要です)[出典: The Register](https://www.theregister.com/2025/12/12/microsoft_more_bug_payouts/)。

この動きは、クラウド・SaaS・AI統合で拡張した攻撃面とサプライチェーンの複雑化に合わせ、発見と修正サイクルの摩擦を下げる狙いがあると読めます。国内のCISO/SOCにとっては、バグ経済と開示・修正のオペレーションを自社の現実に合わせて再設計する好機であると同時に、対応を誤るとトリアージ負債を積み上げかねない転換点でもあります。

深掘り詳細

事実関係(報道ベース)

  • Microsoftは「デフォルトで範囲内(default in-scope)」の方針を取り、同社の全製品とサービスに関わる脆弱性報告に対して、既存の個別バウンティの有無にかかわらず報奨を支払うと報じられています。
  • 第三者コードやオープンソースに起因する問題でも、Microsoft側の提供物に影響が及べば支払い対象に含めるとされています。
  • 直近の実績として、昨年は研究者へ1,700万ドル超の報奨を支払っており、今後も拡大が見込まれるとされています。
  • 出典: The Register(2025/12/12)(https://www.theregister.com/2025/12/12/microsoft_more_bug_payouts/)。

注: 本稿は公開報道に基づく分析で、正式条件はMSRCの発表・ポリシー文書の確認が前提になります。報奨の対象範囲・重複報告の取り扱い・OSSメンテナへの情報共有・支払い条件など、実務の要所は公式ガイドライン次第です。

編集部のインサイト:戦略の狙いと構造変化

  • 発見の面の拡大と「フリクションの削減」
    • 対象スコープを「原則対象」に切り替えることは、研究者が“どこまで叩いてよいか”の判断コストを下げ、クラウドやAI機能を含む新領域の探索を促します。サプライチェーン依存を前提に、調達元・組み込みOSS・マネージドサービスの境界で生まれる責任の押し付け合いを減らす意図が見えます。
  • バグ経済のシフト
    • 報奨拡大は、低~中難度の欠陥が「私設市場」へ流れるインセンティブを相対的に下げ、ディフェンダ側への情報流入を増やします。一方で、高難度・高価値のゼロデイは依然として非公開市場に留まるため、支払い総額の増加=高リスク領域の完全カバーではない点に留意が必要です。
  • オペレーションの新しい難所
    • 報奨対象の拡張は、MSRCのトリアージとマルチベンダー調整の工数を増やします。特に第三者コード起因の欠陥では、Microsoft側の緩和策(コンフィグ変更・WAF・回避策)と、上流(OSS/サードパーティ)の恒久修正の二段階管理が必要になり、公開・パッチ供給・緩和策発表のタイムライン設計が鍵になります。
  • AI特有の評価軸
    • 生成AIやエージェント機能の脆弱性は、従来のRCE/権限昇格と異なり、状態依存・データ依存・文脈注入(プロンプトインジェクション)などの非決定的な性質を持ちます。報奨判定のスコアリングと再現性要件、影響評価の標準化が、今後の品質を左右します。

想定される課題と不確実性(仮説)

  • 重複報告と報奨の公平性
    • サプライチェーン案件は複数ベンダーが同時に影響を受けるため、クレジットと支払いの帰属が複雑化します。重複報告やバグ衝突の処理基準が明確でないと、研究者の信頼を損ねやすいです。
  • 修正SLAと公開タイミング
    • 上流の修正待ちとMicrosoft側の緩和策提供の二重管理により、公開遅延や部分公開が増える可能性があります。その間の悪用リスクと顧客影響(ゼロデイ露出期間)をどう抑えるかが実務の肝です。
  • OSSメンテナとの関係性
    • 報奨がMicrosoft側で完結すると、上流メンテナの負荷だけが増える“外部不経済”が発生しかねません。現実には、情報共有・修正支援・クレジット付与など、協調設計が不可欠です。
  • 法務とセーフハーバー
    • 「原則対象」は優れた方向性ですが、実験条件・境界テスト・クラウド多テナント環境での許容行為など、法的セーフハーバーの明文化と実務運用が伴わなければ、研究者は萎縮します。公式ポリシー整備が鍵です。

メトリクス全体からは、実装される確度・即応性・現場適用のしやすさが高い一方で、長期的な価値は運用の緻密さに依存するテーマに見えます。国内組織は“報奨拡大”そのものより、発見→通知→緩和→恒久修正→再発防止までの一連の責任分担とSLAを、サプライチェーン・AI特有の不確実性込みで再設計することが要諦です。

脅威シナリオと影響

以下は仮説に基づく想定シナリオです。MITRE ATT&CKの戦術・テクニックに沿って整理します(IDは代表例)。

  • シナリオ1:OSSライブラリ脆弱性経由のクラウド初期侵入

    • 例: Microsoftのクラウドサービスが組み込むOSSの入力処理バグを突かれ、RCEに至る。
    • ATT&CK:
      • Initial Access: Exploit Public-Facing Application(T1190)
      • Privilege Escalation: Exploitation for Privilege Escalation(T1068)
      • Defense Evasion: Modify Cloud Compute Infrastructure(該当手法の組み合わせ)
      • Credential Access: Unsecured Credentials(T1552)/ Valid Accounts(T1078)
    • 影響: マルチテナント環境での横展開、サービスプリンシパル悪用、データ抽出の高速化。緩和にはWAF/IPSの仮想パッチ、機能フラグの段階的無効化、迅速なライブラリアップデートが必要です。
  • シナリオ2:依存関係混乱(Dependency Confusion)を通じたビルド汚染

    • 例: 内部パッケージ名と同名の外部パッケージを高バージョンで登録し、Microsoft関連のビルド/拡張を汚染(サプライチェーン)。
    • ATT&CK:
      • Initial Access: Supply Chain Compromise(T1195)
      • Execution: Command and Scripting Interpreter(T1059)
      • Persistence: Modify Trusted Developer Utilities(T1543/T1574の状況次第)
    • 影響: 拡張機能・エージェント・ツールチェーンの広範な感染。署名検証、スコープ付きレジストリ、ピン留めと整合性検証(checksums/SLSA準拠)が前提になります。
  • シナリオ3:AI機能へのプロンプトインジェクションによる権限外操作

    • 例: 企業テナントで使うCopilot系機能に、外部コンテンツ経由で命令注入し、データ抽出や外部呼び出しを誘発。
    • ATT&CK(近似付け):
      • Initial Access: Phishing/Drive-by Compromise(T1566/T1189)
      • Collection/Exfiltration: Exfiltration Over Web Services(T1567)/ Exfiltration Over Unencrypted/Alternate Channel(T1041の状況)
      • Impact: Data from Information Repositories(T1213)への不正アクセス誘導
    • 影響: データ境界の文脈破りが中心で、権限昇格が伴わなくても情報漏えいが成立します。ガードレール強化、モデル指示の構造化、出力制約、ツール呼び出しのポリシー化が必要です。
  • シナリオ4:Microsoft 365の信頼関係を介した横展開

    • 例: サードパーティのM365アプリのトークン取り扱い不備を突き、Graph API経由で横展開。
    • ATT&CK:
      • Initial Access: Trusted Relationship(T1199)
      • Credential Access: Access Token Manipulation(T1134)
      • Lateral Movement: Use Alternate Authentication Material(T1550)
    • 影響: 最小権限やConsentガバナンスが弱いと、広範囲のデータアクセスに発展します。承認ワークフロー、アプリケーション許可の定期レビュー、条件付きアクセスが鍵です。

総じて、本方針は上記シナリオの早期検知と修正を促進しますが、報告量の増加で未修正期間における悪用リスク(情報非対称)が一時的に上がる可能性があります。SOCは検知強化(WAF・API異常・トークン異常・モデル出力逸脱)を先行投資し、ゼロデイ緩和のランブックを“クラウド/AI/サプライチェーン”の3カテゴリで別立てするのが現実的です。

セキュリティ担当者のアクション

  • 自社VDPとセーフハーバーの明文化
    • クラウド・AI・サプライチェーンの三領域で、許容されるテスト条件・計測範囲・多テナント配慮・負荷試験の閾値を明文化し、研究者と社内レッドチームの行動規範を統一します。
  • マルチベンダー調整の定型化
    • Microsoft/上流OSS/自社の三者間で、初動通知から恒久修正までのRACIをテンプレ化します。重複報告・クレジット帰属・公開タイムラインの判断基準も事前合意します。
  • 修正SLAと“仮想パッチ”運用の拡充
    • 上流修正待ちの間に適用する緩和策(WAFシグネチャ、機能フラグ、構成変更、最小権限化)の標準ランブックを用意し、ゼロデイ露出期間を短縮します。
  • 依存関係の可視化と整合性検証
    • SBOMを更新し、クラウド/エージェント/プラグイン/AI拡張を含む依存関係の整合性検証(署名、ハッシュ、スコープ付与、ピン留め)をCICDに強制します。
  • クラウドとID境界の監視強化
    • Initial Access(T1190/T1195/T1199)とValid Accounts(T1078)に焦点を当て、API呼び出しのベースライン化、トークン異常、サービスプリンシパルの横展開兆候を監視します。
  • AI機能のセキュリティ評価
    • プロンプトインジェクション、データ抽出、ツール誤呼び出しを含む評価項目を設定し、生成AIに特化したレッドチーム演習を定期化します。モデルガードレールと人手審査の併用を運用に組み込みます。
  • 内部報奨・外部報奨の整合
    • 社内バグバウンティや報告奨励と、Microsoftの新方針の重複や競合を整理します。外部報告前の社内判断窓口を一本化し、機密情報の取り扱いとタイムライン管理を徹底します。
  • 公開・周知の運用
    • Microsoft側の緩和策・パッチ公開と連動した顧客通知、影響資産の自動特定、設定変更のガイダンス提供を迅速化します。変更加速に耐えるFAQ/KBの更新体制が必要です。
  • 予算と人員の平準化
    • 報告増への対応として、トリアージ・検証・緩和策適用の人員をピークに合わせて外部連携含め柔軟化します。観測・ブロック・復旧の責任分担を平時から整えます。

参考情報

注記: 本稿は上記報道に基づく分析記事です。報奨の適用条件・スコープ・セーフハーバー・評価基準などの最終的な判断は、Microsoftの公式ポリシーと合意文書に従う必要があります。最新の一次情報を必ず確認のうえ、運用設計してください。

背景情報

  • i マイクロソフトは、過去にバグバウンティプログラムを導入していましたが、特定の製品やサービスに限定されていました。新しい「デフォルトで範囲内」アプローチにより、脆弱性の発見が促進されることが期待されています。
  • i この変更は、特にクラウドやAIの分野における脅威に対抗するためのセキュリティ強化を目的としており、研究者のインセンティブを高めることを狙っています。