2025-12-04

ShadyPandaの長期ブラウザハックが430万人を感染させた

ShadyPandaという脅威グループが、7年間にわたりブラウザマーケットプレイスに見かけ上は正当な拡張機能をアップロードし、ユーザーの信頼を築いた後、悪意のある更新を静かに展開しました。この結果、430万人のChromeおよびEdgeユーザーが感染しました。Koi Securityの研究者によると、Clean Masterを含む5つの拡張機能で30万人が感染し、さらに別の5つのMicrosoft Edge拡張機能によるスパイウェアキャンペーンで400万人が被害を受けました。ShadyPandaは、拡張機能の正当性を利用し、ユーザーを増やした後に悪用する戦略を採用しました。

メトリクス

このニュースのスケール度合い

8.0 /10

インパクト

8.0 /10

予想外またはユニーク度

7.5 /10

脅威に備える準備が必要な期間が時間的にどれだけ近いか

8.0 /10

このニュースで行動が起きる/起こすべき度合い

7.5 /10

主なポイント

  • ShadyPandaは、正当な拡張機能を利用してユーザーの信頼を築き、その後悪意のある更新を行いました。
  • この攻撃により、430万人のユーザーが感染し、情報収集やセッションハイジャックなどの被害が発生しました。

社会的影響

  • ! この攻撃は、ユーザーが信頼する拡張機能が実際には悪意のあるものである可能性を示しています。
  • ! ブラウザの拡張機能に対する信頼が脆弱であることが明らかになり、今後のセキュリティ対策が求められます。

編集長の意見

ShadyPandaの攻撃は、ブラウザ拡張機能のセキュリティモデルに対する重大な警鐘を鳴らしています。拡張機能が正当であると見なされることで、ユーザーは無防備になり、悪意のある更新が行われるリスクが高まります。このような攻撃は、単に技術的な問題ではなく、セキュリティモデル全体の欠陥を示しています。特に、拡張機能の審査プロセスが静的分析に依存しているため、動的な脅威に対して脆弱です。今後は、拡張機能の更新後も継続的な監視が必要です。また、ユーザーは信頼できるソースからのみ拡張機能をインストールし、定期的に使用している拡張機能を見直すことが重要です。さらに、企業や開発者は、拡張機能のセキュリティを強化するための新しい基準を設ける必要があります。これにより、ユーザーの信頼を守り、同様の攻撃を未然に防ぐことができるでしょう。

解説

正規拡張を“信頼洗浄”してから武器化―ShadyPandaが7年越しにChrome/Edgeで計430万人に侵害影響

今日の深掘りポイント

  • 拡張ストアの審査・星評価・ユーザー数という“信頼”を7年かけて蓄積し、後出しの悪性更新で一斉に切り替える「信頼洗浄→武器化」パターンが成立していることが最大の論点です。
  • 影響は少なくともChrome/Edgeで430万人規模と報告。SaaSセッション奪取やブラウザ内RCE相当の任意コード実行(ブラウザコンテキスト)を含むスパイウェア機能が主眼とみられます。
  • 拡張の静的審査と限られた動的検証では、アップデート段階の「徐々に悪化する」振る舞いを捕捉しづらい構造的課題が露呈しました。
  • 企業側は「インストール前審査」から「更新後の継続評価・振る舞い監視・即時隔離」へと運用の重心を移す必要があります。許可制・権限最小化・拡張BOM(資産台帳)の管理がカギです。
  • 現場感としては発生確度と差し迫り度が高い部類です。とりわけBYODや個人Chrome/Edgeが業務SaaSへ接続する環境では、セッション奪取を介したクラウド側からの侵入が現実的なリスクです。

はじめに

ブラウザ拡張はSaaS時代の「最も近い場所」に常駐し、ユーザー操作やクッキー、トークンに直アクセスできる権限を持ちます。その一方で、拡張ストアの審査は事前の静的分析に比重が置かれ、長期の運用監視やアップデート差分のリスク評価は限定的になりがちです。今回のShadyPandaとされる一連の事案は、この構造を突いて「最初は善玉、後から悪玉」という時間差攻撃を成立させています。企業側は「どの拡張を入れるか」ではなく「いつ、何が、どう変わったか」を継続把握する時代に入ったと受け止めるべきです。

深掘り詳細

事実関係(報告ベース)

  • 研究者報告によれば、ShadyPandaは少なくとも7年にわたり見かけ上は正当な拡張をストアへ公開し、ユーザー数と評価を蓄積後、静かに悪性更新を配信したとされています。
  • 影響はChromeとEdge合算で約430万人。内訳として、Clean Masterを含む5拡張で約30万人、別のEdge向け5拡張のスパイウェア・キャンペーンで約400万人と報じられています。
  • 侵害機能としてはブラウザ履歴・データ収集、セッションハイジャック、ネットワーク上の中間者的な振る舞い、さらに開発者ツールが開かれている場合だけ無害化する解析回避が挙げられます。拡張が「ブラウザ内で任意コードを実行する」意味でRCE相当の機能に転化したとの報告もあります(OSレベルのネイティブRCEか、ブラウザ・コンテキストでの任意JS実行かは技術的に要切り分けです)。
  • これらはKoi Securityの調査に基づくとされ、二段階での武器化(ユーザー増→悪性更新)という作戦が中核にあります。
    参考: Security Boulevardの報道

注記: 上記は公開報道に依拠した要約です。一次資料(IoC、拡張ID、C2ドメイン、サンプルハッシュ等)の詳細は報道元の原調査にあたる必要があります。

編集部のインサイト

  • 信頼の時間差悪用(Trust-laundering):初期は真に有用な機能でレビューとユーザー基盤を獲得し、ストア側も「既存アップデート」と見なしやすくなるタイミングで悪性化する。組織のブラック/ホワイトリストも「実績ある拡張」としてホワイト寄りに固定化されやすい心理・運用の死角を突いています。
  • 権限の“据え置き”型エスカレーション:拡張は新権限を要求するとユーザー再承認が必要になるため、攻撃者は初期から過剰権限を要求し、後段でその権限を本来目的外に悪用するほうが目立たない、という設計上の逆手戦術が見えます。Manifest V3はリモートコード実行経路を制約しましたが、過大なhost permissionsやwebRequestの悪用余地が残ると、アップデートでの“振る舞い転用”は阻止しきれません。
  • 「解析時だけ善玉」なアンチフォレンジック:DevTools/Debugger検知で悪性コードを無効化するのはモバイル・アドウェアや一部の拡張系マルウェアで定番です。これはストア側のサンドボックス分析や一般研究者の手元検証を迂回し、実運用時のみ発火する“低ノイズ化”に資します。
  • 企業影響の本質は「クラウド側」:エンドポイントにEDRを入れていても、ブラウザ拡張が奪ったセッションCookie/トークンでSaaSに正規アクセスされれば、侵入起点はクラウド。IDプロバイダ/SaaS側の異常セッション検知・強制再認証・条件付きアクセスの出番です。
  • ガバナンスの再定義:「入れてよい拡張か?」だけでは不十分で、「入れたあと、どの更新で何が変わったか? それは既存の想定許可と整合か?」を機械的にレビューするプロセス(継続的承認)が要ります。アプリSBOMの発想を拡張に広げた“Extension BOM(XBOM)”管理が有効です。

脅威シナリオと影響

以下は編集部による仮説ベースのATT&CKマッピングを含む分析です(テクニックIDはATT&CKの版差で変動し得ます)。

  • シナリオ1:SaaSセッション奪取からのクラウド横展開
    想定手口

    • 初期アクセス/持続化:悪性化したブラウザ拡張の更新配信(ATT&CK: Browser Extensions, 旧T1176相当; Supply Chain的経路としてTrusted Relationship/T1199相当の解釈も)
    • 資格情報アクセス:ブラウザ保存資格情報・Cookie/セッショントークンの窃取(Credentials from Web Browsers, T1555.003相当)
    • 防御回避:デバッガ検知による動的解析回避(Obfuscated/Deobfuscated/Anti-Analysis, T1027系)
    • C2/流出:HTTPSでの外部送信(Exfiltration Over C2 Channel, T1041相当)
    • 有効アカウント悪用:盗取トークンでSaaSへ正規ログイン(Use of Valid Accounts, T1078.004 Cloud Accounts相当)
      影響
    • Google Workspace/Microsoft 365/Slack/Salesforce/GitHub等のSaaSで横展開、DLP回避の情報持ち出し、共有リンクの権限乱用などに発展し得ます。
  • シナリオ2:ブラウザ内RCE相当の任意コード実行による標的ページ改ざん・入力窃取
    想定手口

    • 実行:拡張によるcontent scriptのインジェクションで任意JS実行(Execution via Browser Extension, 旧T1176系)
    • 収集:フォーム入力やDOMベースの資格情報の窃取(Input Capture, T1056系)
    • 防御回避:権限据え置きと難読化、稼働環境判定での無害化
      影響
    • SaaS上の支払い振替・リポジトリ設定改変・ビルドシークレットの吸い上げなど、ユーザー操作の乗っ取りに近い被害が想定されます。
  • シナリオ3:ネイティブ連携の足がかりによるOSレベル侵害(可能性の仮説)
    想定手口

    • 拡張からのダウンロード・実行誘導、あるいはNative Messagingホストの悪用(Inter-Process Communication, T1559系/User Execution, T1204系)
      影響
    • 条件が揃えばEDR迂回のローカル実行に発展する余地がありますが、今回報道の「RCE」はブラウザ・コンテキスト内の任意実行を指している可能性が高く、OSレベルRCEについては一次資料での技術検証が必要です。

運用上の示唆(メトリクス踏まえた総合観)

  • 発生確度と差し迫り度は高く、即時の封じ込め設計(許可制・更新監視・撤去動線)がない環境は被害の裾野が広がりやすいです。
  • 新規性は中程度ながら、「年単位での潜伏→切替」という攻撃者の忍耐が組み合わさると、星評価や利用者数といった“ソーシャル信頼指標”が逆にセキュリティ・シグナルを誤導します。
  • 現場は「拡張=エンドポイント管理」ではなく、「拡張=クラウド侵入の前駆体」としてSaaS/IdP側の検知・強制再認証をセット運用にするべきです。

セキュリティ担当者のアクション

即応(0–7日)

  • 監査と一時的封じ込め
    • 現行利用拡張の全社インベントリ化(部門・デバイス・拡張ID・バージョン・権限)。許可リスト以外を即時隔離対象にします。
    • Chrome/Edgeのポリシーで「許可リスト(Allowlist)」「強制インストール(Forcelist)」「ブロックリスト(Blocklist)」を設定し、個人導入を原則禁止します。該当ポリシー(例):ExtensionInstallAllowlist/Blocklist/Forcelist相当。
    • 重大SaaSのセッション強制失効(Google Workspace/M365/IdP)と広域Cookieリセットの計画を準備・実行します。
  • 検知の即席ルール
    • CASB/SSPM/IdPで同一ユーザーの異常セッション(短時間でのIP/ASN移動、デバイス指紋不一致、ヘッドレス指標)を高感度化。
    • プロキシ/EDRで拡張の既知C2(一次資料で入手可能なら)や不審SNI/JA3/DoHエンドポイントを阻断・監視します。
  • フォレンジック基本セット
    • 感染ブラウザの拡張ディレクトリのハッシュ差分、更新日、権限の変化、通信先の記録を取得。SaaS側では監査ログ(共有リンク作成、OAuth同意、アプリトークン発行、外部転送)を時系列で確保します。

短期(2–4週間)

  • ガバナンスの常態化
    • 「更新後レビュー」を制度化。拡張のアップデート検知→差分許可(権限・外部通信先・コード署名/パブリッシャー)→自動隔離というワークフローをSOAR化します。
    • 権限最小化の設計。activeTabや特定ドメインへの限定許可を原則に、<all_urls>やwebRequestの恒常付与を禁止します。
    • BYOD・個人プロファイルの業務アクセスを分離(社用プロファイル、VDI、アイソレーションブラウザの活用)。
  • クラウド側の防御強化
    • SSO/IdPで条件付きアクセス(新しい/リスク高のセッションはMFA再要求、デバイス準拠必須)を適用。
    • OAuthアプリ審査とトークン寿命短縮。リフレッシュトークンの無効化ポリシー、SaaSごとの「Cookie無効化→再認証」を運用に落とし込みます。

中期(1–3か月)

  • XBOM(拡張BOM)運用
    • 重要部署ごとに「使用許可拡張リスト」「バージョン」「権限」「開発者」「更新履歴」「審査結果」「外部通信先」を台帳管理。CI/CDでポリシー違反を自動検出します。
  • ストア・エコシステム連携(将来要件)
    • 署名付きビルドの再現性検証、許可権限の“凍結宣言”(Permission Freeze)と逸脱検出、段階的ロールアウトへの外形監視を求めるベンダー対話を開始します。
  • レジリエンス演習
    • 「悪性拡張→SaaSセッション奪取→横展開」の紫チーム演習を半年スパンで実施し、IdP・SaaS・EDR・SOARの連携ボトルネックを洗い出します。

注意点(RCE表現の解釈)

  • 拡張がOSレベルで任意コードを実行するにはNative Messaging等の橋渡しが必要になるのが一般的です。今回の「RCE」はブラウザ・コンテキスト内での任意JS実行を指す可能性が高く、OS侵害の有無は一次資料での技術検証を待つべきです。防御設計は「ブラウザ内で完結する侵害でも、SaaS側に深刻な被害が及ぶ」前提で組むのが現実的です。

参考情報

背景情報

  • i ShadyPandaは、ChromeおよびEdgeの拡張機能を利用して、ユーザーの信頼を得た後に悪意のあるコードを展開しました。拡張機能は、静的分析による審査を通過し、長期間にわたり正当な機能を提供していましたが、最終的にはリモートコード実行(RCE)を行うマルウェアに変わりました。
  • i このマルウェアは、ユーザーのブラウザ履歴やデータを収集し、ネットワーク上での中間者攻撃を実行する能力を持っています。さらに、開発者ツールが開かれると無害な動作に切り替えることで、研究者による分析を回避することができます。