2025-10-27

72カ国が初の国際的なサイバー犯罪防止条約に署名

2025年10月27日、ベトナムのハノイで世界初の国際的なサイバー犯罪防止条約が署名されました。この条約は、2024年12月に国連総会で採択され、2026年12月31日まで署名が可能です。72カ国が署名し、各国の手続きに従って批准される必要があります。この条約は、サイバー犯罪に対する国際的な協力を強化し、特に発展途上国への技術支援を促進することを目的としています。国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、この条約がサイバー犯罪に対抗するための強力な法的手段であると述べました。

メトリクス

このニュースのスケール度合い

10.0 /10

インパクト

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予想外またはユニーク度

8.0 /10

脅威に備える準備が必要な期間が時間的にどれだけ近いか

4.0 /10

このニュースで行動が起きる/起こすべき度合い

4.0 /10

主なポイント

  • この条約は、サイバー犯罪に対する国際的な枠組みを提供し、電子証拠の収集や共有に関する国際基準を確立します。
  • また、オンライン詐欺や児童性的虐待に関連する犯罪を初めて国際的に犯罪として認識し、24時間体制の協力ネットワークを構築します。

社会的影響

  • ! この条約により、サイバー犯罪に対する国際的な取り組みが強化され、各国が協力して犯罪に立ち向かうことが期待されます。
  • ! 特に発展途上国に対する技術支援が強化されることで、これらの国々のサイバーセキュリティ能力が向上することが見込まれます。

編集長の意見

サイバー犯罪は、近年急速に進化しており、国際的な協力が不可欠です。この新しい国連のサイバー犯罪防止条約は、各国が連携してサイバー犯罪に立ち向かうための重要なステップです。特に、電子証拠の収集や利用に関する国際基準が確立されることで、各国の法執行機関がより効果的に協力できるようになります。また、オンライン詐欺や児童性的虐待に関する犯罪が国際的に認識されることで、これらの問題に対する取り組みが強化されることが期待されます。さらに、発展途上国への技術支援が強化されることで、これらの国々のサイバーセキュリティ能力が向上し、国際的なサイバー犯罪に対する防御力が高まるでしょう。しかし、条約の実施には各国の政治的意志が必要であり、批准後の具体的な行動が求められます。今後は、各国がこの条約をどのように実施し、効果的な協力体制を築いていくかが重要な課題となります。

解説

国連「サイバー犯罪防止条約」署名開始—72カ国参加、電子証拠と24/7協力網が企業IRと越境データ運用の前提を塗り替える動きです

今日の深掘りポイント

  • 2025年10月27日、ハノイで国連のサイバー犯罪防止条約の署名が開始し、初日で72カ国が署名しました。条約は40カ国の批准で発効、署名は2026年12月31日まで可能です。電子証拠の収集・共有や24/7の協力ネットワーク、途上国への技術支援を中核とする国際協力の枠組みです。出典: Help Net Security
  • スコアリング指標の示唆
    • score 58.00(相対評価): 国内企業の運用・法務・IR体制に中〜高の影響が見込まれる材料で、早期の備えが合理的です。
    • magnitude 7.00: 規制・手続き・証拠移転の「仕組み」を変える制度的インパクトが大きいです。
    • novelty 8.00: 国連レベルで初の包括枠組みという新規性が高いです。
    • immediacy 4.00 / actionability 4.00: 発効までラグがあるため、直ちに運用が変わるわけではない一方、準備投資は今期から着手が妥当です。
    • positivity 6.00 / probability 9.00 / credibility 10.00: 国連主導の一次情報に基づく信頼度が高く、発効の蓋然性も高いと見ます。

この評価からの現場示唆は、「すぐに義務が変わる」より「発効時に備えたIR・証拠保全・越境データ運用のフォレンジック・レディネスを整える」ことに重心を置くべき、という点です。

はじめに

国連の新たなサイバー犯罪防止条約は、国際的な捜査共助と電子証拠の迅速な保全・取得・共有を規範化し、24/7の協力ネットワーク運用を掲げる初のグローバル枠組みです。オンライン詐欺や児童性的虐待といった犯罪類型の国際的認知を含み、発展途上国への技術支援も明記されます。初日72カ国が署名し、40カ国批准で発効する設計です。日本企業にとっては、越境ログ・クラウド証拠・暗号鍵管理・データ移転の社内手順と、法執行機関からの短期タイムライン要請に耐えるフォレンジック・レディネスが実務論点になります。人権保護・越境監視の懸念と規範競合(既存の地域条約や国内法との整合)もリスクファクターです。

出典は現時点で公開報道を一次情報として参照しています(Help Net Security)。条約本文・締約国リスト等の一次文書は続報で補完します。

深掘り詳細

事実(確認できていること)

  • 署名開始日と場所: 2025年10月27日、ハノイで署名開始です。出典
  • 署名国数: 初日で72カ国が署名です。[同上]
  • 採択・署名・発効条件: 2024年12月に国連総会で採択、署名は2026年12月31日まで、40カ国の批准で発効です。[同上]
  • 目的と機能: 国際的なサイバー犯罪対策の協力強化、電子証拠の収集・共有基準、オンライン詐欺や児童性的虐待の国際的犯罪認知、24/7協力ネットワーク、途上国への技術支援です。[同上]
  • 国連事務総長コメント: サイバー犯罪対抗の強力な法的手段である旨の評価です。[同上]

上記はいずれも公開報道に基づく事実関係です。

インサイト(編集部の視点)

  • 実務インパクトは「証拠の時間軸」に出る可能性が高いです。24/7ネットワークの常設が前提なら、保存要請・開示要請に対する応答SLAは短縮が想定され、企業のログ保全・取得・提供までの直線距離(検出→保全→抽出→法務レビュー→提供)を標準化する必要が高まります。
  • 電子証拠の「場所の壁」が下がります。クラウド・SaaS・CDN・アイデンティティ基盤など、証拠が分散する現状では、越境データ移転の法的根拠(契約条項や同意、法執行例外)と技術的可用性(API権限・監査証跡・鍵管理)が同時に問われます。条約の共助ルートが整備されれば、企業は内規とベンダー契約をそれに合わせて平時から整えておくことが合理的です。
  • 規範競合リスクを過小評価すべきではないです。既存の地域条約や国内プライバシー法と新条約の関係が国ごとに異なれば、同一事案でも「移転可否・マスキング・通知義務・異議申し立て」などの運用が揺れます。多国籍企業は「フォレンジック・データ・ガバナンス方針」を条約対応版にアップデートし、データ分類と保存期間、エビデンスの最小化・分離保管といった設計の再検討が必要です。
  • 攻撃者側のTTP変化も想定されます。共助の迅速化は、インフラの短命化、非参加国・準拠弱地域へのホスティング移転、リージョン分断を前提としたデータ強奪と即時の再暗号化・再売買など、タイムベースの防御を難しくする方向への適応を誘発し得ます(後述のATT&CK仮説参照)。

ガバナンスと人権の両立(編集部の仮説)

  • 条約は法執行を強化する一方、越境監視・表現の自由・データ保護の懸念が各国の実装差で顕在化する可能性があります。企業は「法執行要請に応じるプロセス」と「人権デューデリジェンス(人権影響評価、必要最小限性、監査記録)」を同居させる運用が求められるはずです。
  • 具体的には、要請の合法性検証フロー、異議申し立てや範囲限定の交渉テンプレート、社内通知と機密保持、監査人・取締役会への説明責任ラインの整備が、発効前からの整備項目です。

脅威シナリオと影響(MITRE ATT&CK仮説)

以下は条約発効により攻撃者が適応し得るTTPの仮説です。実際の観測に基づくものではないため、今後のインテリジェンスで検証が必要です。

  • シナリオ1: 非参加国・短命インフラへのシフト

    • 概要: 共助の迅速化を回避するため、攻撃者が非参加国や法執行協力の弱い地域にホスティングを移し、ドメイン・VPS・プロキシを短期間で回転させます。
    • 関連ATT&CK:
      • Resource Development: T1583(Acquire Infrastructure), T1584(Compromise Infrastructure)
      • Command and Control: T1090(Proxy), T1071.001(Application Layer Protocol: Web)
      • Defense Evasion: T1562(Impair Defenses), T1027(Obfuscated/Compressed Files and Information)
      • Discovery/Impact: T1568(Domain Generation Algorithms)
    • 企業影響: IOC寿命の短縮、 takedown/ブロックの効果時間の減少、ブランドなりすまし(ドメイン使い捨て)の増加が予想されます。
  • シナリオ2: ランサム攻撃の「スプリント化」

    • 概要: 証拠保全や追跡が早まる前提で、侵入から抽出・暗号化・交渉公開までを短時間で完結させる運用に移行します。
    • 関連ATT&CK:
      • Initial Access/Execution: T1566(Phishing), T1204(User Execution)
      • Credential/Discovery: T1078(Valid Accounts)
      • Collection/Exfiltration: T1560(Archive Collected Data), T1567.002(Exfiltration to Cloud Storage), T1041(Exfiltration Over C2 Channel)
      • Impact: T1486(Data Encrypted for Impact), T1490(Inhibit System Recovery)
    • 企業影響: 早期検知・隔離がより重要になり、復旧の前提であるバックアップ完全性・ネットワーク分離の即応が問われます。
  • シナリオ3: マネーミュールとB2B決済詐欺の越境高速化

    • 概要: 共助に先んじて資金を第三国経由で散らすため、BECの口座回転や暗号資産・ギフトカード・代行決済の多段化が強まります。
    • 関連ATT&CK:
      • Initial Access: T1566.002(Spearphishing Link)
      • Credential Access: T1110(Brute Force), T1078(Valid Accounts)
      • Collection: T1114(Email Collection)
      • Exfiltration: T1041(Exfiltration Over C2 Channel)
    • 企業影響: 決済ワークフローの多要素確認と、越境送金の追加検証ステップが実務必須になります。
  • シナリオ4: 24/7連絡網・LEA連携点のソーシャルエンジニアリング

    • 概要: 法執行名義の偽装要請で企業の「緊急開示」手続きを突く手口が増える可能性があります。
    • 関連ATT&CK:
      • Reconnaissance: T1589(Gather Victim Identity Information)
      • Initial Access: T1566.003(Spearphishing via Service)
      • Defense Evasion: T1036(Masquerading)
    • 企業影響: 緊急要請バイパスのリスクが上昇し、要請の真正性検証(デジタル署名・逆連絡ルート・ケースID照合)の厳格化が必要です。

セキュリティ担当者のアクション

  • フォレンジック・レディネスの体系化
    • 監査可能な証拠保全プロセス(時刻同期、チェーン・オブ・カストディ、識別子管理)を標準化します。
    • ログ・テレメトリの保存期間と保管場所(クラウド/オンプレ/地域)を棚卸しし、短期の保存要請に即応できる抽出パス(API権限、eDiscovery、SIEM/EDRエクスポート)を整えます。
  • 24/7連絡体制の整備
    • 組織内の24/7コンタクトポイント(法務・CERT/SOC・プライバシー・CISO)を指定し、法執行要請の受付から真正性検証、スコープ絞り込み、提供、事後監査までのSOPを策定します。
    • 緊急要請のなりすまし対策として、回答前の逆連絡ルート・PGP/証明書検証・二者承認を必須化します。
  • データガバナンスと契約の見直し
    • クラウド/SaaSベンダーの法執行要請ハンドブック、ログ保持能力、キー管理(顧客管理鍵・HSM・KMSアクセスログ)を確認し、契約の付帯規定を更新します。
    • 社内「越境データ提供ポリシー」を策定し、最小化、マスキング/擬名化、通知・記録・監査の方針を明文化します。
  • インシデントレスポンス(IR)計画の条約対応
    • IR手順に「越境証拠保全・提供」の遊泳線を増設し、事案分類(刑事/民事/規制)、法域判断、要請の妥当性審査の分岐を追加します。
    • バックアップの論理的/地理的分離、リカバリ演習の頻度向上、特にランサム系の初動SOPを見直します。
  • SOC/Threat Intelの運用改善
    • 短命インフラを想定したドメイン年齢・登録パターン・ASN/地理のヒューリスティクス導入、プロキシ/トンネル(T1090)とWebプロトコルC2(T1071.001)の検知強化を行います。
    • 署名国・批准状況とホスティング地理のモニタリングを行い、脅威アクターのインフラ選好の地政変化をウォッチします。
  • KPI/メトリクスを設定
    • 法執行要請の真正性確認に要する平均時間、保存要請への初回応答時間、ログ抽出のリードタイム、提供データの最小化率など、条約対応KPIを新設します。

参考情報

  • Help Net Security: UN Convention against cybercrime opens for signature in Hanoi (2025-10-27) https://www.helpnetsecurity.com/2025/10/27/un-convention-against-cybercrime/

本稿は上記公開情報を基に、企業実務へのインパクトと防御側の備えを編集部の視点で整理したものです。条約の最終テキストや実装ガイダンスの一次情報に基づく詳細は、入手次第アップデートします。

背景情報

  • i サイバー犯罪は、テロリズムや人身売買、金融犯罪などの新たな形態を生み出しており、国際的な対応が求められています。この条約は、国際的な協力を強化し、各国の能力を向上させることを目的としています。
  • i これまで、電子証拠に関する国際的な基準は存在せず、各国の法制度に依存していました。この条約は、電子証拠の収集と利用に関する初の国際的な枠組みを提供します。