IPv6 Extension Headers
IPv6拡張ヘッダ
1. 概要
1.1 プロトコルの正式名称(略称)と発案された背景
正式名称: IPv6 Extension Headers (IPv6拡張ヘッダ) 略称: なし (一般的に「IPv6拡張ヘッダ」または「拡張ヘッダ」と記述)
発案された背景: IPv4のヘッダ構造は固定長であり、新しい機能やオプションを追加する柔軟性に欠けていました。IPv6では、この問題を解決するため、基本ヘッダを簡素化し、オプション機能を拡張ヘッダとして追加できる構造が採用されました。これにより、IPv6はより柔軟で拡張性の高いプロトコルとなりました。拡張ヘッダは、IPv6パケットの基本ヘッダの後に続き、ルーティング、フラグメンテーション、認証などの様々な機能を提供します。
1.2 主な用途、目的、解決する課題
主な用途:
- ルーティング: 経路制御を柔軟に行う(例: ソースルーティング、モバイルIP)
- フラグメンテーション: パケットを分割・再構成する
- セキュリティ: パケット認証と暗号化を提供する(例: AH、ESP)
- モビリティ: モバイルノードの移動をサポートする
- QoS: 特定のトラフィックに優先度やリソースを割り当てる
目的:
- IPv6基本ヘッダのシンプルさを維持しながら、多様なネットワーク機能を追加する
- 将来の拡張性を提供し、新しい機能の導入を容易にする
- ネットワーク機能の柔軟性と効率性を向上させる
解決する課題:
- IPv4の固定ヘッダによる柔軟性の欠如
- 新しい機能を追加するための標準化の複雑さ
- 特定のアプリケーション要件に対応するための柔軟性の欠如
1.3 OSI参照モデルでの位置づけと他のプロトコルとの関係
OSI参照モデルでの位置づけ: IPv6拡張ヘッダは、OSI参照モデルのネットワーク層(第3層)に属します。IPv6の基本ヘッダと組み合わせて、ネットワーク層でのパケットのルーティングと配信を制御します。
他のプロトコルとの関係:
- IPv6: IPv6拡張ヘッダは、IPv6基本ヘッダと密接に連携して動作します。
- TCP/UDP: トランスポート層プロトコル(TCP、UDP)の上位に位置し、これらのプロトコルによって生成されたデータを伝送します。
- IPsec (AH, ESP): セキュリティ拡張ヘッダ (AH, ESP) は、IPsecプロトコルの実装の一部として使用されます。
- モバイルIPv6: ルーティング拡張ヘッダを使用して、モバイルノードの移動をサポートします。
1.4 主要な特徴と利点
- 柔軟性: 様々な機能をオプションで追加できるため、IPv6の利用シーンに応じて必要な機能を選択できます。
- 拡張性: 新しい拡張ヘッダを追加することで、将来的な機能拡張に対応できます。
- 効率性: 基本ヘッダをシンプルに保つことで、ルーティング処理の効率を向上させることができます。
- モジュール性: 各拡張ヘッダは独立した機能を提供するため、管理と実装が容易です。
- セキュリティ: AH (Authentication Header) と ESP (Encapsulating Security Payload) などのセキュリティ拡張ヘッダを使用することで、機密性と完全性を確保できます。
1.5 一般的な使用シナリオ
- VPN (Virtual Private Network): IPsec (AH, ESP) 拡張ヘッダを使用し、セキュリティを確保した通信を実現します。
- モバイルネットワーク: モバイルIPv6を使用し、移動するノードの接続を維持します。
- QoS (Quality of Service) 対応ネットワーク: フローラベルを使用し、特定のトラフィックの優先度を制御します。
- マルチキャスト: ホップバイホップオプションヘッダを使用し、特別なルーティングオプションを指定します。
- ネットワークテストとデバッグ: ホップバイホップオプションヘッダを使用して、パケットのパスをトレースします。
- ソフトウェアイーサネット: セグメントルーティングヘッダ(SRH)を使用し、ネットワークパスを指定し、トラフィックエンジニアリングを行います。
2. プロトコルフロー
IPv6拡張ヘッダは、パケットごとに複数のヘッダを使用できます。そのため、単一の通信パターンを定義することは難しいです。ここでは、いくつかの一般的なパターンについて、シーケンス図と説明を提供します。
A) 基本パターン (ルーティングとデータ転送)
sequenceDiagram
participant Sender
participant Router1
participant Router2
participant Receiver
Sender->>Router1: IPv6 Packet (基本ヘッダ + ルーティングヘッダ + データ)
activate Router1
Router1->>Router2: IPv6 Packet (基本ヘッダ + ルーティングヘッダ + データ)
activate Router2
Router2->>Receiver: IPv6 Packet (基本ヘッダ + ルーティングヘッダ + データ)
deactivate Router2
deactivate Router1
説明:
- Sender (送信者): IPv6パケットを作成します。このパケットは、基本ヘッダとルーティング拡張ヘッダ、およびペイロード(データ)を含みます。ルーティングヘッダは、経由するルーターのリストを指定します。
- Router1: 受信したパケットのルーティングヘッダを解析し、次のホップ(Router2)へパケットを転送します。ルーティングヘッダの内容を更新(例えば、次のホップアドレスを削除)します。
- Router2: Router1と同様に、ルーティングヘッダを解析し、次のホップ(Receiver)へパケットを転送します。ルーティングヘッダの内容を更新します。
- Receiver (受信者): パケットを受信し、ルーティングヘッダを含む拡張ヘッダを処理した後、ペイロード(データ)を上位層プロトコルへ渡します。
各メッセージの目的と内容:
- IPv6 Packet: 基本ヘッダには、送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、次のヘッダタイプが含まれます。ルーティングヘッダには、経由するルーターのリスト、ホップ数、次のヘッダタイプが含まれます。データには、上位層プロトコル (TCP, UDPなど) のデータが含まれます。
タイミング要件:
- ルーターは、受信したパケットを迅速に処理し、転送する必要があります。タイムアウトが発生すると、パケットは破棄される可能性があります。
B) エラーハンドリングパターン (フラグメンテーションと再構成)
sequenceDiagram
participant Sender
participant Router
participant Receiver
Sender->>Router: IPv6 Packet (基本ヘッダ + フラグメンテーションヘッダ + データ - 巨大)
activate Router
Router->>Router: フラグメンテーションヘッダに従いパケットを分割
Router->>Receiver: IPv6 Fragment (基本ヘッダ + フラグメンテーションヘッダ + データの一部)
Router->>Receiver: IPv6 Fragment (基本ヘッダ + フラグメンテーションヘッダ + データの一部)
Router->>Receiver: IPv6 Fragment (基本ヘッダ + フラグメンテーションヘッダ + データの一部)
deactivate Router
Receiver->>Receiver: 受信したフラグメントを再構成
説明:
- Sender (送信者): IPv6パケットを作成します。このパケットは、基本ヘッダとフラグメンテーション拡張ヘッダ、および大きなペイロード(データ)を含みます。
- Router (ルーター): パケットのサイズがMTU(最大転送単位)を超える場合、フラグメンテーションヘッダに従ってパケットを分割します。各フラグメントには、基本ヘッダ、フラグメンテーションヘッダ、およびデータの断片が含まれます。
- Receiver (受信者): フラグメントを受信し、フラグメンテーションヘッダの情報に基づいてそれらを再構成し、元のパケットを復元します。
各メッセージの目的と内容:
- IPv6 Packet: 基本ヘッダには、送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、次のヘッダタイプが含まれます。フラグメンテーションヘッダには、フラグメント識別子、オフセット、More Fragmentsフラグなどが含まれます。データには、上位層プロトコル (TCP, UDPなど) のデータが含まれます。
- IPv6 Fragment: 基本ヘッダとフラグメンテーションヘッダに加えて、元のパケットのデータの一部を含みます。
エラーハンドリング:
- タイムアウト: 受信側が一定時間内にすべてのフラグメントを受信できない場合、再構成を中止します。
- 再送メカニズム: フラグメントの紛失や破損があった場合、上位層プロトコル(例:TCP)が再送を要求します。
- エラー応答: IPv6自体はエラー応答を送信しません。エラー処理は上位層プロトコルに委ねられます。
C) 認証・認可パターン (AH/ESP)
sequenceDiagram
participant Sender
participant Router
participant Receiver
Sender->>Router: IPv6 Packet (基本ヘッダ + AH/ESPヘッダ + データ)
activate Router
Router->>Receiver: IPv6 Packet (基本ヘッダ + AH/ESPヘッダ + データ)
deactivate Router
Receiver->>Receiver: AH/ESPヘッダを検証、復号化
説明:
- Sender (送信者): IPv6パケットを作成します。このパケットは、基本ヘッダとAH(認証ヘッダ)またはESP(カプセル化セキュリティペイロード)ヘッダ、およびペイロード(データ)を含みます。認証ヘッダはパケットの認証と完全性を提供し、ESPヘッダは暗号化と認証を提供します。
- Router (ルータ): パケットはルータを通過しますが、AHまたはESPヘッダは変更されません。
- Receiver (受信者): パケットを受信し、AHヘッダを検証するか、ESPヘッダを復号し認証します。成功すればペイロード(データ)を上位層プロトコルへ渡します。
各メッセージの目的と内容:
- IPv6 Packet: 基本ヘッダには、送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、次のヘッダタイプが含まれます。AH/ESPヘッダには、認証に必要な情報、シーケンス番号、暗号化データ(ESPの場合)が含まれます。データには、上位層プロトコル (TCP, UDPなど) のデータが含まれます。
認証・認可フロー:
- 認証: AH/ESPヘッダは、共有鍵(事前共有鍵、公開鍵インフラストラクチャ)を利用して、パケットの送信者と完全性を認証します。
- 認可: このプロトコルレイヤーでは、パケットの認証のみを提供し、認可は上位層で扱われます。
D) 特殊パターン (モバイルIPv6)
sequenceDiagram
participant MN
participant HA
participant CN
MN->>HA: IPv6 Packet (基本ヘッダ + モバイルIPv6ヘッダ + データ) - Registration
HA->>MN: IPv6 Packet (基本ヘッダ + モバイルIPv6ヘッダ) - Registration Confirmation
MN->>CN: IPv6 Packet (基本ヘッダ + ルーティングヘッダ + データ) - Data via HA
CN->>HA: IPv6 Packet (基本ヘッダ + ルーティングヘッダ + データ) - Data to MN
HA->>MN: IPv6 Packet (基本ヘッダ + ルーティングヘッダ + データ) - Data to MN
説明:
- MN (モバイルノード): HA(ホームエージェント)に登録を送信します。このパケットは、基本ヘッダとモバイルIPv6ヘッダを含みます。
- HA (ホームエージェント): 登録を受け付け、確認応答をMNへ返信します。
- MN: 通信相手(CN)へ送るパケットを、HA経由で送ります。このパケットには、基本ヘッダ、ルーティングヘッダ(HAを経由させる)、およびペイロードを含みます。
- CN: MNへ送るパケットを、HA経由で送ります。このパケットには、基本ヘッダ、ルーティングヘッダ(HAを経由させる)、およびペイロードを含みます。
- HA: MNへ送るパケットを、MNへ転送します。
各メッセージの目的と内容:
- IPv6 Packet: 基本ヘッダには、送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、次のヘッダタイプが含まれます。モバイルIPv6ヘッダには、登録、ホームアドレス、転送アドレスなどの情報が含まれます。ルーティングヘッダは、パケットの経由経路を指定します。データには、上位層プロトコル (TCP, UDPなど) のデータが含まれます。
初期化シーケンス:
- モバイルノードは、ネットワークに接続した際、まず自身のホームエージェントへ登録を行います。これにより、ホームエージェントはモバイルノードの現在のアドレスを把握できます。
3. メッセージフォーマット
IPv6拡張ヘッダは、様々なタイプがあり、それぞれ異なるフォーマットを持ちます。以下に、一般的な拡張ヘッダのメッセージフォーマットを説明します。
共通構造:
すべての拡張ヘッダは、基本ヘッダの "Next Header" フィールドで識別されます。また、各拡張ヘッダは "Next Header" フィールドを持ち、次のヘッダタイプを指定します。拡張ヘッダの一般的な構造は次のようになります。
| Next Header (8 bits) | Header Length (8 bits) | Specific Header Data (可変長) |
- Next Header (8 bits): 次のヘッダのタイプを示す値。例えば、TCP=6, UDP=17, AH=51, ESP=50, Hop-by-Hop Options=0, Destination Options=60, Routing=43, Fragment=44。
- Header Length (8 bits): 拡張ヘッダの長さを8バイト単位で示したもの。このフィールドは、ヘッダの実際のサイズが固定長でない場合に使用します。
- Specific Header Data (可変長): 拡張ヘッダの種類に固有のデータフィールド。
A) 制御メッセージ (例: ルーティングヘッダ)
フィールド名 | サイズ(bit) | 説明 | 条件 |
---|---|---|---|
Next Header | 8 | 次のヘッダのタイプを示す | 必須 |
Header Length | 8 | ヘッダの長さを8バイト単位で示す | 必須 |
Routing Type | 8 | ルーティングタイプを示す | 必須 |
Segments Left | 8 | 残りのセグメント数を示す | 必須 |
Reserved | 16 | 予約フィールド | 必須 |
Address[1] | 128 | 中継点のIPv6アドレス | オプション (Routing Type に依存) |
Address[2] | 128 | 中継点のIPv6アドレス | オプション (Routing Type に依存) |
... | ... | ... | オプション |
- Routing Type: 特定のルーティングの種類を識別します。例えば、Type 0 はソースルーティングを意味します。
- Segments Left: 残りのルーティングアドレスの数を示します。
- Address[n]: パケットが通過するルーターのIPv6アドレスです。
B) データメッセージ (例: フラグメンテーションヘッダ)
フィールド名 | サイズ(bit) | 説明 | 条件 |
---|---|---|---|
Next Header | 8 | 次のヘッダのタイプを示す | 必須 |
Reserved | 8 | 予約フィールド | 必須 |
Fragment Offset | 13 | フラグメントの開始位置を示す(8バイト単位) | 必須 |
Reserved | 2 | 予約フィールド | 必須 |
M Flag | 1 | More Fragmentsフラグ(1=後続フラグメントあり) | 必須 |
Identification | 32 | フラグメント化されたパケットの識別子 | 必須 |
- Fragment Offset: 元のパケットに対するフラグメントのオフセットを8バイト単位で指定します。
- M Flag: More Fragmentsフラグ。パケットが最後のフラグメントであるかを示します。
- Identification: フラグメント化されたパケットを一意に識別する値。
C) 状態管理メッセージ (該当なし)
IPv6拡張ヘッダには、専用の状態管理メッセージはありません。状態管理は、通常、上位層プロトコルによって行われます。
特記事項:
- 必須/オプションフィールドの条件: 各拡張ヘッダの仕様によって、必須フィールドとオプションフィールドが定義されています。
- フィールド間の依存関係: 一部のフィールドは、他のフィールドの値に依存して解釈されます。
- 値の制約条件: 各フィールドの値は、特定の範囲や条件を満たす必要があります。
- 拡張可能な部分の説明: 拡張ヘッダには、オプションフィールドを追加できるものもあり、柔軟な拡張を可能にします。
4. 状態遷移
IPv6拡張ヘッダ自体は状態を持つプロトコルではありません。拡張ヘッダは、個々のパケットの処理に関連する情報を伝達し、その処理は通常、ルーターやエンドシステムによって行われます。そのため、具体的な状態遷移図はありません。
ただし、一部の拡張ヘッダ(特にモバイルIPv6)では、特定の状態を伴う場合があります。しかし、これはあくまで上位層のプロトコルの動作であり、拡張ヘッダ自体が状態を持つわけではありません。
タイムアウトと再試行の動作:
- IPv6拡張ヘッダ自体には、タイムアウトや再試行のメカニズムは含まれていません。
- エラー処理や再試行は、通常、上位層のプロトコル(TCPなど)によって行われます。
- フラグメンテーションにおいては、再構成中にタイムアウトが発生した場合、パケットは破棄され、再送は上位プロトコルに依存します。
5. パケットの種類と用途
A) コントロールパケット
IPv6拡張ヘッダの多くは、パケットのルーティングやセキュリティなどの制御情報を提供します。
- 種類と目的:
- ルーティングヘッダ (Routing Header): パケットの経由ルートを制御します。
- ホップバイホップオプションヘッダ (Hop-by-Hop Options Header): ルーターで処理されるオプション情報を提供します。
- デスティネーションオプションヘッダ (Destination Options Header): 宛先で処理されるオプション情報を提供します。
- 認証ヘッダ (Authentication Header, AH): パケットの認証と完全性を提供します。
- カプセル化セキュリティペイロード (Encapsulating Security Payload, ESP): パケットの暗号化と認証を提供します。
- モビリティヘッダ (Mobility Header): モバイルノードの移動をサポートします。
- セグメントルーティングヘッダ(Segment Routing Header, SRH): ネットワークパスを指定し、トラフィックエンジニアリングを行います。
- 使用されるシナリオ:
- ルーティングヘッダ: ソースルーティング、モバイルIPなど
- ホップバイホップオプションヘッダ: ジャンボパケット、ルーティング情報のトレースなど
- デスティネーションオプションヘッダ: エンドポイントでの特殊な処理
- AH/ESP: VPN、セキュリティ通信
- モビリティヘッダ: モバイルネットワークでのハンドオーバー
- SRH: ソフトウェアイーサネットにおけるトラフィックエンジニアリング
- 特殊な処理要件:
- 各コントロールパケットの処理は、定義された仕様に厳密に従う必要があります。
- セキュリティ拡張ヘッダは、暗号化や認証処理を追加する必要があります。
B) データパケット
IPv6データパケットは、上位層プロトコル(TCP、UDPなど)からのデータをペイロードとして運びます。
- ペイロードの形式: ペイロードの形式は、上位層プロトコルによって定義されます。
- フラグメンテーション: パケットサイズがMTUを超える場合、フラグメンテーション拡張ヘッダを使用してパケットを分割します。
- 再組み立て要件: 受信側は、フラグメントを再構成して元のパケットを復元する必要があります。
C) 管理パケット
IPv6拡張ヘッダには、専用の管理パケットはありません。しかし、拡張ヘッダによって追加される情報を使用して、ネットワークの監視やデバッグを行うことができます。
- 監視用パケット: ホップバイホップオプションヘッダを使用して、ルーティングパスをトレースできます。
- 設定用パケット: IPv6ルーター設定には、Router Advertisement (RA) メッセージを使用します(ICMPv6)。設定情報は、オプションとしてRAメッセージのペイロードに含まれることがあります。
- デバッグ用パケット: ホップバイホップオプションヘッダを使用し、デバッグ情報をパケットに含めることができます。
エラーコード: IPv6拡張ヘッダ自体には、エラーコードは含まれていません。 エラー処理は、主にICMPv6(Internet Control Message Protocol for IPv6)で行われます。
ICMPv6 エラーコード | 説明 |
---|---|
1 | Destination Unreachable(宛先到達不能) |
2 | Packet Too Big (パケットが大きすぎる) |
3 | Time Exceeded(タイムアウト) |
4 | Parameter Problem(パラメータの問題) |
... | ... |
6. プロトコルバリエーション
- バージョンによる違い: IPv6拡張ヘッダには、バージョンによる大きな違いはありません。主な違いは、新しい拡張ヘッダが追加されることです。
- 実装環境による違い: 実装環境によって、サポートされる拡張ヘッダの種類や処理方法が異なる場合があります。
- セキュリティレベルによる違い: 使用するセキュリティ拡張ヘッダ(AH、ESP)や暗号アルゴリズムによって、セキュリティレベルが異なります。
- 最適化オプションによる違い: 一部の拡張ヘッダ(例:ルーティングヘッダ)には、最適化オプションが提供されています。例えば、より効率的なルーティング経路の選択などです。
7. セキュリティ考慮事項
- 認証メカニズムの詳細: AH (Authentication Header) と ESP (Encapsulating Security Payload) ヘッダが、認証と暗号化に使用されます。これらのメカニズムは、IPsecプロトコルの一部として定義されています。
- AH: パケットの認証と完全性を提供します。
- ESP: パケットの暗号化と認証を提供します。
- 暗号化要件と推奨アルゴリズム: ESPを使用する際には、暗号化アルゴリズムを指定する必要があります。推奨されるアルゴリズムとしては、AES(Advanced Encryption Standard)があります。
- 完全性保護の方法: AHとESPは、ハッシュ関数(例:SHA-256)を使用してパケットの完全性を保護します。
- 既知の攻撃手法と対策:
- リプレイ攻撃: シーケンス番号を使用して対策します。
- 中間者攻撃: 暗号化と認証を使用して対策します。
- セキュリティ監査の要件: 実装されたセキュリティメカニズムが、仕様どおりに動作するかを定期的に監査する必要があります。
- セッション管理の方法: セキュリティ拡張ヘッダでは、セキュリティアソシエーション(SA)を確立してセッションを管理します。
- 鍵管理に関する考慮事項: 共有鍵は安全に配布し、定期的に更新する必要があります。鍵管理には、IKEv2(Internet Key Exchange version 2)などのプロトコルが使用されます。
8. 標準化と仕様
- 関連するRFC番号と概要:
- RFC 8200: Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification
- RFC 2401: Security Architecture for the Internet Protocol
- RFC 4302: IP Authentication Header
- RFC 4303: IP Encapsulating Security Payload (ESP)
- RFC 6275: Mobility Support in IPv6
- RFC 8754: IPv6 Segment Routing Header (SRH)
- RFC 8201: Path MTU Discovery for IP version 6
- 標準化団体と策定プロセス: IETF (Internet Engineering Task Force) が標準化を担当しています。
- 仕様書の構成と主要な章の説明: RFCは、概要、定義、フォーマット、手順、セキュリティ、参考文献などの章で構成されています。
- バージョン間の主な違い: IPv6拡張ヘッダ自体にバージョンはありませんが、RFCは改訂や新しい仕様の追加が行われます。
- 将来の拡張性に関する規定: IPv6の拡張ヘッダは、柔軟な拡張を可能にするよう設計されています。
- 準拠性要件: IPv6実装は、関連するRFCに準拠する必要があります。
9. 実装時の注意点
- 一般的な実装パターン: 一般的な実装では、拡張ヘッダの解析と処理を、専用のモジュールまたはライブラリで処理します。
- スケーラビリティに関する考慮事項: 拡張ヘッダの処理は、ルーティングやパケットのフォワーディングのパフォーマンスに影響を与える可能性があるため、最適化が必要です。
- パフォーマンスチューニングのポイント: 拡張ヘッダの処理を高速化するために、キャッシュや並列処理を活用します。
- デバッグとトラブルシューティング方法: パケットキャプチャツール(Wiresharkなど)を使用して、拡張ヘッダの内容を解析します。
- テスト時の検証項目: 各拡張ヘッダが正しく処理されるか、セキュリティ機能が正しく動作するかをテストします。
- 他システムとの統合時の注意点: 他のシステム(ファイアウォール、VPNゲートウェイなど)との統合時には、拡張ヘッダの処理方法が競合しないように注意します。
- 運用監視の推奨事項: ネットワークのトラフィックを監視し、異常なパケットやセキュリティイベントを検知します。
10. 具体的な実装例
パケットダンプ例 (ルーティングヘッダ)
IPv6 Header:
Version: 6
Traffic Class: 0x00
Flow Label: 0x00000
Payload Length: 40
Next Header: 43 (Routing)
Hop Limit: 64
Source Address: 2001:db8::1
Destination Address: 2001:db8::4
Routing Header:
Next Header: 17 (UDP)
Header Length: 1
Routing Type: 0
Segments Left: 1
Reserved: 0x0000
Address[1]: 2001:db8::3
UDP Header:
Source Port: 12345
Destination Port: 53
Length: 28
Checksum: 0x1234
Data:
...
このパケットは、2001:db8::1
から 2001:db8::4
へのパケットで、ルーティングヘッダによって 2001:db8::3
を経由します。ペイロードはUDPデータです。
Wiresharkキャプチャ例
Wiresharkでパケットをキャプチャした場合、拡張ヘッダの内容は、詳細なヘッダ解析によって表示されます。
11. 補足情報
- 一般的なユースケース: 上記の他に、QoS、マルチキャスト、ネットワークテストなどのユースケースがあります。
- 実装例や参考コード: 多くのOSで、IPv6拡張ヘッダの実装が提供されています。例として、Linuxカーネルの
net/ipv6
ディレクトリには、IPv6の様々な機能の実装が含まれています。 - 関連ツールやライブラリ:
- Wireshark: パケットキャプチャと解析ツール。
- tcptrace: ネットワークパケットのトレースツール。
- libnet: パケット生成ライブラリ。
- トラブルシューティングガイド: パケットキャプチャツールを使用して、拡張ヘッダの解析と正しい実装を確認します。問題が発生した場合は、関連するRFCを参照します。
- 用語集:
- AH: Authentication Header
- ESP: Encapsulating Security Payload
- SA: Security Association
- MTU: Maximum Transmission Unit
- RFC: Request for Comments
- 参考文献:
この文書は、IPv6拡張ヘッダの設計、実装、および運用に関する詳細な情報を提供します。